僕は事務所に居合わせた他のスタッフらに挨拶を終わらせ帰ろうとした時に、町造部長に呼び止められた。

小さな声で耳打ちをされた。

「権田が行方不明になった」

部長はそう言い、小さなメモ書きを僕に握らせた。
僕はそれをポケットに突っ込み何食わぬ顔で事務所を後にした。

早足でエレベーターホールを抜けビルの外へと出る。

僕はその足でハローワークへ向かった。
食うためには働かなければいけない。今のご時世でそう安々と希望通りの職にありつけるとは思ってはいなかったが、まずは行動あるのみ。

僕は沙希ちゃんと出会ってから随分と変わってきていた。

ハローワークに着くと、まずトイレへと向かった。
個室に入りポケットに手を突っ込んだ。
部長から渡されたメモ書きが出てくる。

メモには『果樹江悶・ここあ』と記されていた。

(何だ?権田先輩の行方不明とここあさんが関係してるのか?)

僕は不可解に思いながらも今夜ここあさんを訪ねてみようと決めていた。

いや、変な下心は無いよ、多分。




トイレから出てハガキ大の受け付け用紙に記入して呼ばれる順番を待った。
待っている間に端末で求人でも見てみようと思ったが、端末全部の前には求職者が座っており、開く気配すら無かった。

(まったく、この国はどうかしてる)

仕方なしに長椅子に腰掛け呼ばれるのを待った。

程なくして僕の名前が呼ばれた④番の椅子に座り、担当者を見てビックリした。

「あら?勇次くん」

その人はビッグアイで紹介されたミーさんだった。

「ミーさん、ここで働いてたんですか」

「沙希ちゃんから聞いてなかったの?私も沙希ちゃんと同じ臨時だけどね。お仕事探してるの?」

「はい。前の会社いろいろあって今日辞めて来ました」

「そう。どんな職種を希望してるのかしら?」

ミーさんはそう言って僕の受け付け用紙を見る。

「んー。人材派遣会社のスタッフねぇ。あるにはあるけど勇次くんのいたような大手は無くってよ」

「はい構いません。どこでも良いんです、小さな会社でも。人と触れ合える仕事がしたいんです」

「そう。じゃあココなんてどうかしら?」

渡された求人表には『H・O・S』と書かれてあった。