ひとしきり泣いた僕は、沙希ちゃんのお母さんに「ごめんなさい。もう大丈夫です」と言い、立ち上がって洗面所で顔を洗った。

鏡に写った自分の顔は意外にもスッキリと晴れていた。

二人の待つテーブルの側まで行くと、沙希ちゃんが心配そうな顔で僕を見詰めていた。

「大丈夫?」

沙希ちゃんが聞いてきた。

「ごめんなさい。もう大丈夫です。いっぱい泣いたらお腹空きました。お母さん、まだ食べても良いですよね」

「勇次さんいっぱい食べて。そしてあとでお話を聞かせてね」

(この沙希ちゃんのお母さんは僕のどこまでを見通しているんだろ?)

「はい!じゃあいただきます!」

そう言って並んだ料理に片っ端から箸をつけていった。
本当にどれもこれもがおいしくて次々とお皿を空にし、それを見ていた二人も呆れ返る程だった。


僕は二日続けて、この親娘に泣かされてしまった訳だ。
そう考えると逆におかしくもなってきた。




食事も一通り済み、僕らはコーヒーを持ってリビングへと移動した。

そして僕の話しをお母さんに聞いて貰った。

最後まで僕の話しを黙って聞いていたお母さんが静かに口を開いた。

「勇次さん、それは沙希の為にそうしたの?」

「いいえ、僕は僕の為にそうしました。それが沙希さんの為になるとも思いました」

「そう。だったら私は何も言う事はないわ。あなた達ももう一人前の大人なんですから。こっちのレディにはまだまだ教える事がたくさん残ってはいるけれどね」

「ありがとうございます。僕も一生懸命にがんばって沙希さんとお母さんを必ず幸せにしてみせます」

「その言葉、預からせて頂いとくわ。勇次さん、沙希をよろしくお願いしますね」

「やっりぃ!これでいつでも勇次くんの所へ泊まりに行けるね!」

「そう言う問題ではないと思いますよ、沙希さん」

「あれ?そうなの?」

「本当にこの子にはまだまだ教える事があるわ」

僕らは声を上げて笑った。

泣いたり笑ったり、本当に忙しい一日だった。





翌々日の火曜日。
僕は会社の事務所を訪れ支社長に辞表を提出した。

『一身上の都合により』

支社長はすんなり辞表を受け取り、僕は晴れて無職となった。