【件名:ゴール裏にいます】

「あのう、すいませんがライター貸してもらっていいですか?」

「ん?いいよ。ちょっと待って・・」

灰皿代わりに備え付けてあるバケツの前で、ヤンキー座りをしていたその人は、ジーンズのポケットからジッポを取り出し僕に渡してくれた。

「ほい。あんたあの子の彼氏?」

「あ、どうも・・」

差し出された銀のジッポを擦り、オイルの匂いのする柔らかな炎で僕はマルボロに火を点けた。

あの子とは沙希ちゃんを指しているのだろうか?
僕は曖昧な返事をするのが嫌で、愛想笑いと共にジッポを返した。

「あまり見かけない顔だけどトリニータ好きなの?」

「トリニータの事はまだ良く知らないんです。この前の市陸の試合が初観戦でしたし」

「へえ、良く知らないのにゴール裏にいるんだ。変わってるね、あんた。あれだ、彼女にどうしてもって言われたんだ」

「いえ。僕が行きたいって言ったんです。この前のゴール裏見てて」

「ふーん、ま、どっちでも良いけどね」

その人はバケツに吸い殻をほうり込み、「よしっ」っと気合いを入れて立ち上がった。

「後半もがんばろうぜ!でかい声出てたよ、あんた」

「勇次、勇次って言います!」

「勇次か。俺は結樹ってんだ。同じ『ゆう』同士がんばろうぜ!」

結樹さんはそう言ってゴール裏の階段を下って行った。

これが僕と結樹さんとの初めての出会いだった。




後半に入り、俄然勢いに乗ったのは相手川崎だった。何度も大分のゴールを脅かすプレーで観客達の悲鳴とため息を誘う。

試合が進むにつれ激しい接触プレーが目立つようになり、とうとうグラウンドに倒れ込んで起き上がれない選手が出て来た。

背番号11の吉田選手は相手ディフェンダーと空中で競り合い、腰から落下していった。

三人の吉田サポーターは口々に相手選手を罵(ののし)り、吉田選手は大丈夫かと息をのんだ。

吉田選手はそのまま担架で運ばれると、大分の監督は代わりの選手をグラウンドに送った。


その直後、川崎の選手がドリブルで大分のゴール前まで切り込むと、そのまま足を振り抜いた。

先取点は川崎が決めた。


『トリニータ!トリニータ!トリニータ!トリニータ!!』