大分駅でここあさんを降ろすと、そのままタクシーでアパートまで向かって貰う。

タクシーを降り際にここあさんは僕に言った。

「勇次くん、今日のは『借り』にしておくわ。好きな時にいつでも使ってね・・」

下半身にむず痒さを感じた。

「しぃよ。私の名前は名山椎(なやましい)って言うの。じゃあね、ご主人さま」


僕はアパートに帰り着いてから沙希ちゃんに電話をした。
時刻は午後12時を少し回った所だった。

「今まで一体どこで何してたのよ!」

電話の向こうで沙希ちゃんが吠える。
今の僕には優しくされるより叱ってくれる彼女の声が心地良く感じた。

「今からそっちに迎えに行きます」

怒り爆発と言った様子の彼女にそう言い、僕は再びアパートの部屋を飛び出して行く。

ある決心を胸に抱いて。

自宅前で彼女をピックアップしてドライブがてら街に向かった。

車の中でも怒りが治まらないと言った風の彼女を乗せ、トリニータのクラブショップ前で車を停めた。

「レプリカユニホームとタオルマフラー選んで下さい」

「え?」

「ゴール裏では必要ですよね?」

「う、うん?」

「行くんですよ・・僕もゴール裏に!」

「ほんと・・?」

「はい!がんばって一緒に戦いましょう!」

「よし!君の気持ちはよーく分かった!行こうゴール裏へ!」



2001Jリーグディビジョン2

《第34節》
大分トリニータvs川崎フロンターレ


僕はもう一つの決心を抱いて、真新しいスタジアムに立っていた。

『ビッグアイ』

日韓ワールドカップ開催の為に造られたビッグアイは第14節の大分トリニータvs京都パープルサンガの落成記念試合でお披露目されて以来、市営陸上競技場と共に大分トリニータのホームスタジアムとして使用されていた。

屋根付きのドームスタジアムは真上から見ると大きな瞳に見える事から通称をビッグアイと名付けられていた。

真新しいスタジアムに立ち、僕も新鮮な気持ちになれた。
胸いっぱいにここの空気を吸い込んだ――。

「凄く大きなスタジアムですねぇ。胸がワクワクして来ましたよ!」

「だね〜!あたしもここに来る度にワクワクするよ!」