(凄い!サッカーって点が入らなくてもこんなに面白いスポーツだったんだ)

残された時間は延長戦後半の15分のみとなった。

グラウンドに散って行く選手達は最後の力を振り絞って走って行く。
泣いても笑っても残りの時間を懸命に戦うだけだろう。

運命のホイッスルは吹かれた。

大宮の前線にボールが渡る。パスを繋いで、繋いで―――。

(え?)

ゴールキーパーの小山の後ろでボールが跳ねている。
白いユニホームの選手が同じチームの選手達に揉みくちゃにされていた。

(入っちゃったのか・・)

試合は呆気なく終わった。

歓喜の白いチーム。

その場にへたり込む青いチーム。

トリニータは負けた。110分近くを戦って。

ゴールキーパーの小山が整列する為にゆっくりとセンターサークルに近づいて来る。
座り込んで立とうとしないチームメイトの背中をポン、ポン、ポンと叩きながら歩いていた。

整列が終わり、トリニータの選手達は真っすぐにゴール裏へと歩き始める。その足取りは重かった。




グラウンドから選手達がいなくなってからしばらくして沙希ちゃんが僕のいる所まで歩いていた。
その足取りは選手同様重かった。

僕は座ったまま彼女が側に来るまで待っていた。
すぐ横にたった彼女を見上げる。

彼女は自分の右手を僕に差し出した。
僕はその手を左手で掴み立ち上がる。
そしてそのまま手を繋ぎゆっくり歩き始めた。

二人は何も喋らなかった。

大分川の土手の上を来た時とは逆の方向に歩く。

「負けちゃいましたね、でも凄く面白かったですよ」

「ほんと?」

「はい。サッカーがあんなに面白いなんて思ってなかったからちょっとしたカルチャーショックですよ」

「良かった・・負けちゃったからもう行かないって言われるのかと思ってた」

「今度は勝ち試合が見たいですね」

沙希ちゃんは僕の腕にしがみつくと「ありがと」と言った。

「お腹空きましたねぇ」

「うん。ペコペコぉ」

「何か食べて帰りましょう」

「あたしあの店のオムライスが食べたいな」

僕らは彼女の指差したレストランを目指して歩いた。