「那比嘉さん!こんばんは!」
周囲のザワつく雑音によって自然と声も大きくなる。
「あ、あそこで見ていたら偶然に勇次さんの姿見つけて・・」
僕の方に歩きながら言った。
「ねーちゃん!早く行こーぜぇ」
那比嘉さんの背後から声がした。
「あ、旬。ちょっと待ってて。この人会社でいつもお世話になってる勇次さん」
僕はいきなり紹介され、びっくりして立ち上がった。
「こんばんは。弟さん?」
「えと、そうです。ほら!旬も挨拶しなさい」
「ちわっす。何だよねーちゃん。急にサッカー観に行こうなんて言ったと思ったら男かよ」
「ばか!そんなんじゃないわよ!ごめんなさい生意気で・・」
旬と呼ばれる高校生位の男の子は確かに生意気そうだった。
丸坊主に刈られた頭を見ると僕の高校時代を思い出させる。
「姉弟仲が良いんですね」
「えと、父も母も家に居る事が少ないから私が面倒見なくちゃいけなくて・・」
「ねーちゃん!」
「あ、うん!じ、じゃあ・・」
僕も「じゃあ」と返すと、二人はメインと呼ばれる席へと向かって行った。
那比嘉さんが何度も振り返る。
『鈍感!』
よう子さんの声が聞こえたような気がした。
(え?そうなの?まさかね・・)
グラウンドではいよいよと言った感じで選手達が散らばって行った。
(青い方がトリニータだよな・・)
サッカー等まともに見た事の無い僕はほとんどルールも知らない。
正月の天皇杯をボーッと見ていた記憶がある。
何度も笛が吹かれ、その度にゲームは止められる。
(たるいな・・)
野球では審判が試合を止める事等ほとんど無い。
全てが選手達に委ねられている。
一方のサッカーはどうだ?
せっかく良い所まで行っても審判の笛一つでやり直し、蹴り直し。
僕は温いゲーム運びに何度も欠伸を噛み殺した。
すると一際大きな歓声が上がった。いや歓声と言うよりも怒号やヤジと言った方が懸命か?
グラウンドを見ると、白いユニホームを着た大宮の選手がボールをゴールの枠に蹴り込んでいた所だった。
(あーあ、やられちゃったよ・・・)
場内が静まり返る中、芝生席の真ん中の集団だけは違っていた。

