【件名:ゴール裏にいます】


2001Jリーグディビジョン2

《第33節》
大分トリニータvs大宮アルディージャ


この日大分市営陸上競技場には平日開催にも関わらず5,300人の観客が詰め掛けていた。

サッカーと無縁の生活を送っていた僕は夜な夜なこんな大勢の人達が集まっている事すら知らなかった。

沙希ちゃんに引っ張られるようにして市陸の敷地に足を踏み入れた。
行き交う人達の顔は全て笑顔で飾られ、僕の好奇心を大きくくすぐった。

(この中では一体どんなものが観られるのだろう?)

彼女は競技場の奥へ奥へと進んで行く。
途中にいくつもある入口を無視するかのように歩き続けていた。

一番奥の入口でチケットを見せて入場する。
着いた所は椅子も無い芝生の席だった。

「ここで観るんですか?あっちの席の方が観やすくないですか?」

「あたしは観に来てるんじゃないよ?一緒に戦うんだ」

僕は彼女の言っている意味が分からなかった。

(一緒に戦うって?プレイヤーでも無いのに・・)

更に彼女はどんどん進んで行く。
先に芝生席に座っている人達を避けながら。

「沙希ちゃん、もしかしてあの集団の中に行くつもりですか?」

「そうだよ。あそこがあたしの戦う場所だから」

「えー、僕は良いです。何かあそこには入っちゃいけない気がします」

「何で?友達もいるし、紹介もしたいのに」

「今日の所は良いです、遠慮しときます・・」

「そっか、じゃああたしも行くのやめとく」

「沙希ちゃんは行って下さい。僕はあの隅で見てますから、気にしないで」

「えー、何か悪いよ。あたしが誘ったのに・・」

「良いから、良いから」

そう言って僕は彼女の背中を押した。
振り向く彼女に片手でバイバイをする。

何度か振り返った後、彼女は集団へと紛れて行った。

僕は芝生席の一番端っこの空いた所に腰を下ろした。

(あー、しまった。ビールってどこで買えるんだろ?)

渇いた喉がヒリヒリしてくる。

(我慢するしか無いか・・)

僕は諦めてゲームを楽しむ事に専念した。

グラウンドでは選手達が練習をしている最中だ。

「勇次さん!」

声がする方を見るとそこには那比嘉さんが立っていた。