【件名:ゴール裏にいます】


僕の乗った自転車がアパートに近付くと沙希ちゃんが車から降りて来た。
きっと不安な気持ちで待っていたのだろう。

僕は自転車を駐輪場に止め、彼女へと駆けて行った。

「ごめん、遅くなりました。車こっちに回して下さい」

ステーションワゴンを移動させ、空いたスペースにライフを誘導する。
ちゃんと停めたのを見計らってステーションワゴンを近所のクリーニング屋さんの駐車場へ停めた。

クリーニング屋の店主にはあらかじめ駐車場を使わせて貰うように頼んでいた。
すぐに走って戻る。
彼女に駆け寄り一緒に三階へと階段を登った。

部屋の鍵を開け二人で中へ入る。
彼女は荷物を置き、僕は着替える為に寝室へ向かった。

「何着て行ったら良いですか?」

振り向きつつ言うと、彼女はそこに立っていた。

「ん・・」

目を閉じ顔を少し上げて唇を突き出していた。

僕は彼女に近寄り唇を重ねる。

キスをしながら彼女は僕のネクタイを首から取るとワイシャツのボタンを一つずつ外していった。

ベルトを緩めスラックスを下ろす。

「元気になったね・・」

トランクスの前を指し言う。

「さてと行きますか!」

「ちょ、生殺しですか!」

「時間無いんだからしょうがないでしょ」

ケラケラと笑いながら言っている。

「何着て行けば良い?」

もう一度聞いた。

「んー、青いシャツとか無いでしょ?」

「ありませんねぇ」

「じゃあ何でも良いよ。Tシャツにジーンズで良いんじゃないかな?」

僕は白いTシャツとチノパンを彼女に見せた。

うんうん、と頷く彼女。

手早く着替えを済ませ、慌ただしく玄関を出た。

大分川の土手の上を陸上競技場へと歩いて向かう。
背後の岩田の森から蜩(ひぐらし)に見送られて。

陸上競技場は既に照明が入れられ、それに群がる虫達のように続々と人の列が吸い込まれて行く。

僕らは逸る気持ちを押さえながらも少し足早に歩いていた。

「トリニータって強いんですか?」

僕の問い掛けに彼女はむっとしたように、

「強いよ、ただ運が無くて二年連続でJ1昇格を逃しているけどね・・」

サッカーの話をする沙希ちゃんの目は真剣そのものだった。