滝課長の意向を聞いた僕はこれ以上ここにいる理由はない。
「では」と言って席を立ち上がろうとしたその時滝課長が声を掛けてきた。
「あ、君。支社長に今度またコレのお供させてくれるようによろしく言っといてよ」
滝課長はゴルフのグリップを握る真似をして言った。
「分かりました、必ず伝えておきます」
僕はこの時の会話の重要性にまだ気がついていない。
滝課長との面会時間は待たされた時間を含めても20分程だ。
このまま帰社し、A社の意向通り人員確保に奔走しなければいけないのだろうが、ハゲ課長の顔を思い浮かべるととてもじゃないがそんな気になれなかった。
正門で面会が終わった事を告げると僕はここから10分程の場所にある図書館を目指し、社用車を走らせた。
図書館には沙希ちゃんが勤めている。
短大の時に図書書士の資格を取った沙希ちゃんは市内の図書館に臨時職員として働いている。
昨日の事を思い出すと僕の分身は疼いた。
こんな嫌な気分の週の始めを迎えた僕は、どうしても彼女に会いたくなった。
会って顔を見るだけで気分は晴れるだろう。
もしかしたら少し位は話しが出来るかも知れない。
そんな期待で図書館へと向かった。
平日の図書館の駐車場は空いていた。
難無く社用車を空いていた駐車スペースに停め、図書館へと向かう。
自動ドアを抜け、階段を登る。
改札前で沙希ちゃんを発見した。
貸し出しカウンターの中で何やら他の職員と会話していた。
薄いピンクのブラウスに紺色のタイトなスカート。普段は滅多に掛けないメガネを掛けている。
僕は改札を抜けると、静かに彼女へと近付いて行った。
下を向いて話し込んでる沙希ちゃんは僕に気付く様子は無かった。
僕は手近にあった一冊の本を手に取り、カウンターに向かった。
「これお願いします」
「はい。貸し出しカードはお持ちですか?」
「持って無いんですけど」
その時に初めて僕の顔を沙希ちゃんは見た。
彼女は驚いたように僕を見詰めた後で顔全体に笑顔を走らせた。
「それではお客様、こちらの利用者カードにご記入なさって下さい」
ちょっと低いカウンターに案内され椅子に座るように薦められる。
対面に彼女が座った。

