「それでなくても事故の後遺症で右半身が痺(しび)れているんですから。今だってこうして右手とバチをガムテープでぐるぐる巻きにしてなきゃ持てないんですよ?」
「何お前、泣き言いいたい訳?リハビリも兼ねて太鼓を叩きたいって言ったのはお前だぞ?お前の身体の中には俺の魂が入ってるんだぞ!」
「そうじゃないですよ。少しは優しくって言いたいだけです・・朝からずっとこんな調子じゃないですか・・」
「よう!新米!がんばっとるか?」
「あ!沙希ちゃん!ちょっと聞いて下さいよぉ」
「何?もう根を上げてるの?だらし無い」
「ち、違いますよ、名山さん」
「ゆうじ、かっこわるいぞ!」
「千尋ちゃんまで・・」
「勇次くん・・あなたパパになるのよ?そんなだらしの無いところをこの子に見せていいの?もっとしっかりしてちょうだい!」
「はいはい・・分かりました・・」
「はいは一回って何度ゆったら―――」
勇次と呼ばれた新米の太鼓係りは右足を引きずるようにして歩いている。心なしか顔面の右半分も引き攣(つ)っているように見えた。
彼は半年程前、小さな男の子を身を提して事故から救った。
男の子は幸いにもかすり傷程度で済み、彼は一ヶ月もの間、生死をさ迷ったあげく、見事に生還した。
事故を聞き付けた多くのゴール裏のサポーターが彼の為に輸血に協力し、彼の最も愛する女性の献身的な介護の賜物(たまもの)だと医師を驚かせた。
何はともあれ彼は再びゴール裏に戻り、愛する女性と家族と仲間達と共に大分トリニータの未来を見てゆくのだろう。
えっ?僕は誰かって?
それは半年後に分かる筈です。
まだ見ぬ父と母と大分トリニータに出会える事を、今は母のお腹の中で楽しみにしています。
ゴール裏で会いましょう。
【件名:ゴール裏にいます】
〜〜完〜〜

