そして―――
2002年 春
大分トリニータは結局2001年のJ1昇格を逃(のが)し、新たなる年を今日、ここビッグアイに迎えていた。
大勢のサポーターが続々とドームスタジアムに集まって来る中、一人の女性と可愛い女の子が手を繋(つな)いで北口ゲートから入場して来た。
一際目をひいたのは女性のお腹が大きかったからだろうか。
「さきねえ、だいじょうぶ?」
「うん、ありがとう千尋ちゃん。お腹の大きいのも慣れちゃったから平気」
「きょうはどうすんの?やっぱりゴールうら?」
「そうだね、ゴール裏はあたし達の場所だからね。行くよもちろん」
「いいけど・・はねたりしちゃだめよ?」
「あはは。わかってるって」
「沙希さん!」
「きゃあ!名山さん!久しぶりぃー!」
「久しぶり!千尋ちゃんもお久しぶり。ずいぶん目立ってきたわね、お腹。予定日いつだっけ?」
「8月21日。順調にいけば勇次くんと同じ誕生日になるんだよ・・これって運命なのかなぁ?」
「勇次くん・・か・・」
「あー、そう言えば・・名山さん、彼とはどうなのよ?結樹さんと付き合ってるんでしょ?」
「ま、まあね・・とっても優しいわ・・見掛けに寄らず」
「今日彼は?」
「朝早くから太鼓を抱えて出掛けた。何でも新米の子に太鼓の叩き方を教えるんだって。『俺は引退すっかな』だって、出来もしやしない癖にね」
「だね。結樹さんはゴール裏にいてこそ光ってるもんね」
「あら、そんな事ないわよ。他にも良いところいっぱいあるんだから」
「はいはい、ごちそうさま」
「さきねえ、そろそろいこうよ」
「そうだね!名山さんも一緒にいこっ!」
「よし!いこっか!千尋ちゃん!」
そう言って三人の女性はゴール裏、トリニータシートの階段を下って行きました。
ゴール裏の最前列では、サポータークラブ、ニータ21の会長さんが熱心に太鼓を叩く新米さんに指導を入れてます。
二人の背中には今年からサポーター番号に指定された『12』の数字が並んでいました。
「バチはな、強く握れば良いってもんじゃないんだ。分かるか?」
「ちょ、あんまり難しい事言わないで下さいよ、結樹さん・・」

