「俺達三人は高校時代から仲が良かった。俺が沖縄を出て大分に移り住んだのをきっかけに三人で小さな炉端焼きの店を始めた。道三の商才で店はどんどんと大きくなり、店舗の数も増えていった。全てが順調に思えた。俺達三人の奇妙な三角関係のバランスもな・・」
父親は昔の事を思い出すように目を閉じ話し続けた。
「そんな関係を壊したのは俺だ。俺は道三の才能に嫉妬し、店を辞めると言った。その時は既に大勢の社員を抱えた立派な居酒屋チェーン店となっていた店を全て道三に譲り、俺はあの海で船を買ったんだ」
「・・・」
「麗子は俺には着いて来なかった。大勢の社員をほっといて自分の好きなように生きるのは勝手過ぎると言って道三の元に残った。そして結婚して道三を支え続けた。道三は居酒屋チェーン店で儲けた金を元にパチンコ店や不動産業を始めた。後はお前も知っての通りの那比嘉グループへと成長していった」
「それで・・何故お母さんは・・?」
「それから何年かしてふらりと麗子が俺の元に現れたんだ。麗子は痩せ細り『疲れた』と一言だけ言った。あれも元々海の好きな女だったから好きなだけいれば良いさと俺は言った。詳しい話は話さなかったし、俺も聞かなかった。俺は麗子と海の側で暮らせる事だけが幸せだったんだ・・」
「お父さん・・」
沙希ちゃんがぽつりと言う。
「それからすぐに麗子の妊娠がわかった。俺は誰の子供なのかはわかっていたが、俺の子供として育てる事を決めたんだ。―――俺は、小さい頃の病気のせいで子供を作れる体じゃなかったからな・・いわゆる種無しって奴だ」
「お母さんもその事を?」
「もちろん知っていたさ。知ってる上で俺達の子供として育てる事を決めた」
「道三は・・?」
「あいつも知っていたと思う。道三からは色んな物が贈られて来た。片っ端から麗子が捨てていたが、一つだけお前が手にして放さないものがあった、覚えているか?」
「・・・グローブだ・・」
「そうだ。お前は道三から贈られて来たグローブをやけに気に入って手放さなかったな。二歳の頃だった。でかい大人用のグローブで俺はキャッチボールの相手をさせられたよ」
父親はそこまで話すと、大きく深呼吸を一つだけした。

