僕と沙希ちゃんは競技場の事務所で警察からの事情聴取を受けていた。本来ならば警察署にまで連れて行かれて事情を聞かれるのだろうが、事は一刻を争う問題で場所を移している余裕が無いと言うところであろう。
それに僕らは被疑者であるはずは無かった。
そこへ原田社長が樫本さんと田中さんを連れだって現れた。
僕は掛けていた椅子から立ち上がり、原田社長に向き直った。
「社長・・僕・・僕――」
『バチン!!』
いきなり頬を平手で打たれた。不思議と痛さは感じずに、ただ打たれた頬が熱かった。
「何やってんのよ!!しっかりしてちょうだいよっ!!」
原田社長の目からは大粒の涙がボロボロと零(こぼ)れ落ちている。
「す、すいませんでしたっ!」
僕はただ頭を下げる事しか出来ない。何かを考えようとしても頭の中に霧がかかったようになり、何も出来ないでいた。
沙希ちゃんはただ泣き続け、その鳴咽はコンクリートの部屋に響いた。
「それで、どうなったんですか?私の娘は」
原田社長は田中さんから差し出されたハンカチで涙を拭(ぬぐ)うと、毅然とした態度でそこにいた刑事に言った。
「千尋ちゃんのお母さんですか。いやあ、それがさっぱり分からんのですよ。この二人に聞いても埓(らち)が開かなくて困っとるんですわ」
原田社長はチラリと僕らの方に視線を向けてから続けた。
「この二人は混乱しています。今分かっている事を教えて下さい」
刑事はメモを取った手帳を見ながら、
「サッカーの試合終了後に一人の男がグラウンドに乱入した。と、その混乱にこの二人が気を取られている間の3分程に千尋ちゃんの姿が消えた。ほとんどの観客達も騒ぎに気を取られて千尋ちゃんがどうなったのか目撃者はいない状態です。今現在は警察と消防と残った観客達で付近を捜索中ですが、今の所は手掛かりは無い、と言うところです」
「その乱入した男って誰なんですか?」
「わかりません。今は中央署で取り調べ中ですな。何か出てくるとしたらこの男からだとは思いますな」
「解りました。それでこの二人はどうなります?」
「だいぶん混乱しておられるようなので今日のところは帰っていただいて結構です。何か思い出したらば教えて下さると言う事で」

