「あれあれ?名山さん、あっち行っちゃったの?」
「はい。これからは沙希ちゃんが連絡しなくてもスタジアムで会えそうですよ、名山さんとは」
「ふーん、後でメールしてみよっと」
ほぼ満員に膨れ上がった大分市営陸上競技場は、試合開始を今かと待ち望む観客達の熱気で溢れていた。
『ドン!ドン!ドン!』
結樹さんの打ち鳴らす太鼓の音に、一瞬だかゴール裏が静まり返る。
コールリーダーが気勢を上げるとそこは一気に熱を帯びていった。
『トリニータッ!(ドドンドドンドン)トリニータッ!(ドドンドドンドン)トリニータッ!(ドドンドドンドン)トリニータッ!(ドドンドドンドン)』
試合開始のホイッスルが吹かれた。
相手側、京都パープルサンガのキックオフのボールは一旦中盤に下げられ、中盤の選手は大きく前に蹴り出した。
ボールは前線に走り込んだ相手FWの黒部に上手く渡り、黒部は何の躊躇(ためら)いも無く、その右足を振り抜く。
すぐ近くのゴールネットが揺らされた。
「うそぉー!」
「え?」
やられた――。
試合開始直後の隙を突かれ先制点を京都に許してしまった。
『トリニータッ!(ドドンドドンドン)トリニータッ!(ドドンドドンドン)トリニータッ!(ドドンドドンドン)トリニータッ!』
この混乱を立て直すかのようにすかさずゴール裏からコールが巻き起こる。
『これから!これから!』
『まだ始まったばかりだぞ!気合い入れ直せ!』
怒号にも似た激を飛ばし、選手を鼓舞する者もいた。
そう、試合はまだ始まったばかりだ。1点くらいはホームチームのハンデだと割り切り気持ちを切り替える事が大切だ。
しかし時としてサッカーの試合ではこのたかが1点が大きくのしかかる場合がある。
そしてこの試合がそうだった。
この後、両チーム共に攻め手を欠き、ズルズルと時間だけが経過していった。
見方によっては首位攻防戦に相応しい緊迫したゲームと取る事も出来たが、試合巧者の京都の前に手も足も出ないと言う感じにも見えた。
そしてそのまま前半が終わった。

