【件名:ゴール裏にいます】

「では、お昼の1時に千尋ちゃんを迎えに来ますから」

「わかったわ。私も思わぬ時間が作れた。何しようかしら?綾蓮、久しぶりにディナーでも一緒にどう?」

それまでパソコンのキーボードの上を休みなく動かしていた綾蓮さんの手が止まった。

「行きたいです。ですが、私も明日は陸上競技場に行きますから無理ですね」

「あなたもサッカーなの?」

「従兄弟のチソンの応援なんです。彼から明日の試合のチケットが送られて来て」

「チソンって、パク・チソンの事ですか?従兄弟なんですか綾蓮さん」

僕はびっくりして綾蓮さんを振り返った。

「そうよ。私の応援するのは大韓民国のナショナルチームだけだけど、彼だけは特別よ。彼はきっとナショナルチームの一員になるわ」

「すげえ・・・」

綾蓮さんはそう言うと再びキーボードの上で指を踊らせる。

「勇次くん、思わぬ敵がそばにいたわね?」

原田社長はククッと笑って言った。






「千尋ちゃん来るって言ったんだ!」

先にアパートに戻っていた彼女が玄関先で僕を出迎えての第一声だった。

「はい。でもサッカー知らないみたいですよ、千尋ちゃん」

「大丈夫よ。勇次くんも最初は知らなかったでしょ?初めてがあるなんて素敵な事よ?」

(あれ?この台詞、どっかで・・)

「どうしたの?」

「いえ、何でもありません。やっとお休みですねぇ」

「お疲れさま。お風呂入る?先にご飯にする?」

「ご飯もう食べられるんですか?」

「あ、いやぁ・・言ってみたかっただけ・・」



「あれ?これは?」

僕はテーブルの上に広げられていた『あいうえお順の表』を見て言った。
大きめのポスターサイズの用紙に『あ』から『ん』までの平仮名と数字の『1』から『0』までが規則正しく書かれてある。

「あ、それ、千尋ちゃんと会話するのに使うの。指で平仮名押していったら言葉になるでしょ?」

「なるほどね・・いちいち書かなくて済む訳だ・・」

「それとポケットサイズのも買って来たよ。携帯が扱えれば良いんだけど、千尋ちゃんにはまだちょっと無理だと思って」

「そうか、メール機能を使えば会話できますね!」

僕は感心して彼女を見た。