「失語症って言うのは脳の血管障害やけがの後遺症として発症して、聞こえるんだけど言葉の意味を理解することが苦手になるんだって。この場合色々なリハビリで言葉の働きを取り戻していくんだけど、千尋ちゃんはそう言うのには当て嵌(は)まらないでしょ?」
「そうですね。千尋ちゃんの場合はお父さんが目の前で亡くなったショックで言葉を失ったって聞いています」
「でね、千尋ちゃんは絵本が大好きじゃない?言葉もちゃんと理解出来るし、字も書ける。そういう人の場合、声が出なくなる原因を取り除いてあげれば元のように話す事が出来るようになるんだよ」
「声が出なくなる原因ですか・・」
「ね?千尋ちゃんをトリニータの試合に連れて行けないかな?」
「どうして?」
「いろんな刺激を与えたらひょっとしてって事もあるでしょ?刺激的じゃない?トリニータ」
「確かに刺激的でしょうけど、何か違うような気がします」
「あ、今ばかにしたでしょ!」
「ばかになんてしてませんよ」
「い〜や、したね。絶対した!」
「だからしてませんって・・」
「ホントに?」
「はい」
「じゃあ、今度の試合に千尋ちゃん連れて来てね?」
「一応社長には聞いてみますけど約束は出来ませんよ。都合があるかも知れないし、何より千尋ちゃんが行くって言うかも分からないんだし」
「そっかぁ。そうだね。でも絶対聞いてみてね?」
「はいはい」
「―――って訳なんですけど、千尋ちゃんの都合はどうですか?」
金曜日。
千尋ちゃんが幼稚園から帰って来たのを見計らって僕は原田社長に問い掛けてみた。
「私は全然構わないわよ。千尋もあなた達になついてるみたいだし。でも良いの?デートなんじゃ?」
「はい、それは。沙希――いや、臼村さんが是非と」
「じゃあ後は彼女次第だわ。千尋、沙希お姉ちゃんがサッカー観に行こうって、どうする?」
千尋ちゃんはサッカーという言葉がピンとこないらしく、キョトンと首をかしげている。
「サッカー知らないのよ、この子」
「千尋ちゃん、明日の夜、僕とお姉ちゃんと遊ぼうか?」
これにはニコッとして大きく頷いた。
「決まりですね」
「ありがとう、勇次くん」

