「僕も実際に会った事は無いけど、悪い噂は良く聞くねぇ。裏の世界に顔が利くとか、ま、あくまでも噂だけどね」
「暴力団とか・・?」
「何にせよ、係わり合いにならないのが一番だね――お、誰か来たかな?」
駐車場に入って来る車の音で僕らは話しをそこで切り上げた。
プレハブから表へ出てみると3台の軽自動車が入って来る所だ。
(あれは――)
『H・O・S』の三人が予定時刻の30分前に現れた。どうやら三人は抜け駆け無しとの打ち合わせをしたようで、途中待ち合わせてここまで揃って来たらしい。
少し早かったが簡単な入所式を済ませ、工場内を案内された。一人一人にロッカーが与えられ晴れて工場の一員となった。
「じゃあ、がんばって下さい。よろしくお願いします。僕は何も心配していませんから――」
一通りの儀式を終え、最後に主任にお礼を言って僕は工場を後にした。
「どうだった?」
『H・O・S』に出社するなり原田社長から声が掛かる。
「はい。何とか無事に」
「そう。三人とは言え、今回は見事だったわね。期待通りの働きだわ」
「いえ、これからですよ。まだ油断はしていません。来年早々に新工場の立ち上げがありますから、その時に何人送り込む事が出来るか・・」
「ま、焦らないでじっくり取り組んでちょうだいね」
「はい。――ところで、千尋ちゃんは・・」
「あの子ならとっくに幼稚園よ、どうかした?」
「夕べの事なんですが、ちょっと変だったもんですから気になって」
「変って?」
「僕の母親の写真を見て、ちょっと興奮してたって言うか、凄く興味を示してたって言うか」
「写真を?」
「いや、変わりがなければそれで良いんです。失礼します」
それから一日の大半を事務所で過ごし、定時に帰宅した。
「今日ね、休憩時間にちょっと調べたんだけど」
夕飯を食べ、テレビを観ながらコーヒーを飲んでいた時に沙希ちゃんが静かに話し出した。
「千尋ちゃん、失語症ではないみたい。あの子みたいな症状は失声症って言うんだって」
「それってどう違うんですか?」
「うん、そこなんだけど――」

