「え?何もしないの?」

篠原さんが振り返って言う。

「・・しません」

「お金もったいないよ・・」

ベットの上を四つん這いになりながら僕の方へ少しずつ近づいてくる。

「私だったら良いんだよ・・」

もう僕に跨(また)がるような格好だ。

「ちょ、篠原さ――」

「なーんてね!帰ろっか!」

ベットから跳ねるように床に下りた篠原さんは向こうに歩きながら、

「着替えてくるからちょっと待っててね。それから――勇次君のそんなところ好きだよ」

「篠原さん・・・」




それからタクシーを呼び、南大分のカラオケボックスの駐車場で代行を同じタクシー会社に依頼した。

「篠原さん、近いうちに連絡しますから、他に仕事探さないで下さいね」

「分かった。勇次君からの連絡待ってる」

「それから今日はごめんなさい。僕――」

「それも分かってるって」

「はい!じゃあ、おやすみなさい!」

僕はステーションワゴンの助手席に乗って篠原さんの立つ駐車場を後にした。

「おやすみ、勇次君」






翌朝僕は昨日と同じ時間に出勤したが、まだ会社の鍵は開いて無かった。

仕方なくステーションワゴンの中で時間をやり過ごす。午前8時になるのを待って主任の携帯に連絡した。

「すいません、夕べは着信に気付いたのが遅くって電話できませんでした。それで用件は?」

主任の話はこうだ。

とりあえず3人。市内からちょっと外れに立て増ししている建屋で働く従業員の研修を行っている会社がある。そこから始めれば他の従業員に交じって『H・O・S』も目立たなくて済むのでは無いか。

僕は社長に相談してから返事をする旨を伝えて電話を切った。

僕が会社に着いてから30分後に綾蓮さんが出社して来た。

「おはようございます」

車から降りて挨拶をする。

「あら、早いのね」

「8時って聞いてましたけど、みなさん遅いんですね」

「8時は昨日だけよ。ここは基本的に9時から6時まで。それから樫元さんと田中さんは滅多にここには来ないわ。よっぽどの用件が無い限りね」

「はあ、そうなんですね・・」

「あなたも早く出社しないで良いようにならなきゃね」