「ちょっと、あなた達それで良いの?せっかくの新潟の夜なのに別々に寝る訳?私の事なら心配いらないから勇次くんツインの部屋使ったら?」

「名山さん、気持ちは嬉しいんですが、僕も昨日からほとんど寝てません。明日も運転がありますし、一人でゆっくり眠ります。おやすみなさい」

沙希ちゃんがいたからってゆっくり眠れない訳でもないが、僕はクタクタに疲れていた。
今の僕には睡眠ほど恋しいものは無かったのだ。



大浴場に浸かり、ゆっくり足と腰を伸ばした。
目を閉じるとこのまま寝てしまいそうになる。

(極楽ってここの事だったのか)

なんて事を考えながらもここで寝る訳にはいかない。
ひとしきりゆっくり浸かり、大浴場を後にした。


部屋の前まで来て気がついた。
ドアの隙間に紙切れが挟まっている。

紙切れを抜いてドアを開け中に入ってから紙切れを広げてみた。


【件名:アルビレックス】
部屋の中にちょうど良い便箋があったのでメールじゃなく手紙を書きました。
勇次くん、本当にありがとう。
あたしは今とても幸せです。
勇次くんには周りの人を幸せにするパワーがあると思うよ。
権田さんも、ももちゃんも、きっと名山さんだって。
新潟まで連れて来て貰ってトリニータの試合まで観せて貰って、本当にありがとう。
明日も帰りの運転がんばろうね。
P.S アルビレックス強かったぁ。。



(まさか、僕にはそんなパワーなんてないよ・・)

僕はこの手紙を枕の下に置いて眠りについた。

深い闇の中に引きずり込まれるのに時間は掛からなかった。








(―――ポーン。――ンポーン)

誰かがチャイムを鳴らす音に目が覚めた。

枕元のデシタル時計は午前7時を表示している。

(あー、良く寝たなぁ・・それにしてもちょっと早いんじゃない?沙希ちゃん)

そんな事を思いながらドアの前まで歩いて行く。

「はい。沙希ちゃん?」

「そう、開けて・・」

朝のせいか声を潜めた返事が帰ってきた。

「もう朝食に行くんですか?もうちょっと眠りたかったなぁ・・」

言いながらドアを開けると、まだ浴衣姿のままの沙希ちゃんが立っていた。

「おはよう・・勇次くん・・」