「行き違いってなんですか?私は納得いかないから今日ここへ来たんです!」

「篠原さん、ちょっと落ち着いて」

「まあ行き違いって言うか勘違いがあるみたいだねぇ」

「滝課長はここでいじめがあったとは認識してないんでしょうか?自分は行き違いや勘違いではなく、いじめがあったと認識しております」

「いじめか。僕は彼女の仕事熱心が故に起こった勘違いと認識しているのだがねぇ」

「とにかく当事者本人がいなければ話しになりません。また日を改めて伺います」

「まあ君も落ち着いて。この話しは今日を限りにして欲しいもんなんだがねぇ。これ以上の混乱は生産にさえ悪い影響を及ぼしかねないからねぇ」

「ではどうしろと?」

滝課長の含むような物言いに少しイラついてきた僕は、答えをせがむように聞いた。

「まあ言いにくいんだが、篠原さんを他の派遣さんに代えて貰う訳にはいかんだろうか。いや篠原さんは十分やってくれているとは思うんだ。だけどね、現場に欲しいのは仕事が出来る派遣じゃないんだよ。生産ラインを乱さず輪を乱さずってやつだ」

「篠原に代わる派遣など我社にはいません。篠原を追い出すなら、当然そちらの女性社員にも何らかのペナルティーはあるんでしょうか?」

「それは君の知るところではないな。彼女をどうするかは僕の仕事になる」

「ペナルティーはあるんですね?」

「もう良いです・・」

僕と課長のやり取りを黙って聞いていた篠原さんが静かに口を開く。

「私がこの現場を出て行けば丸く収まるんですね?いじめは無くなるんですね?・・・だったら私はここを辞めます・・」

「篠原さん、それは駄目ですよ!」

「うん。約束しよう。いじめがあったか無かったかは別として、これからはそんな事は一切ないと約束するよ」

課長は左腕のロレックスを気にしながらそう言った。

「じゃあ、それで良いです・・」

その言葉を聞くと滝課長はソファーから立ち上がり、篠原さんに労いの言葉を一言二言かけ、最後に「補充よろしく」と僕に言った。

(補充だと!人間の補充なんかあるものか!)

僕は喉元まで出かかったその言葉を呑み込み、それを潮時に事務所を後にした。