純情恋心


『……那智、君さ………に……ない……?』

「……え?」

通過する電車に、高遠先輩が発した言葉を掻き消される。

そして電車が通過しきると、高遠先輩はあたしを見て優しく微笑んだ。

高遠先輩、今何て言ったんだろう……。

そう問いかけようと高遠先輩を見ると、高遠先輩はあたしの腰の辺りに後ろから手を回した。

「っえ……あ、あの……」

『どうなの?』

「え……っ?」

どうなの、って……もしかして、さっき言っていた事に対しての答えを問われてるのかな?

だとしたら、ちゃんと聞き直さなきゃだめだよね。

「あの、さっき何て……」

『だめなの?』

「えぇ……っ」

何を言ったのかを聞き直そうとしたのに、高遠先輩はそれを遮るように問いかけてきた。

だめも何も、何を問われたのかさえわからないのに……そんなの答えられる訳がない。

だけど答えを迫る高遠先輩に、もう一度問いかけるなんて、出来そうになくて。

「だめじゃ、ないですけど……」

あたしはそう答えてしまった。

――この時、何を言ったのかをちゃんと聞き直しておくべきだった。

あたしの言葉を聞くと、高遠先輩は笑った。

だけどその笑みは今までとは違って、優しい微笑みに見えるけど、悪戯っぽくも見えて。

この時に異変に気付くべきだった……。