「その人の名前はね…優、っていうの。」
「え…?」
じゃあもしかして…優の名前は…
「違うわ、雫。
優は優しい子に育ってほしかったから。
だから優、って名前を付けたの。
でも、もしかしたらお父さんはそうは考えてなかったかもしれないね。
お母さんの大切な人の名前を、
あえて、付けてくれたのかもしれない。」
お母さんの表情はいつもの穏やかな表情に戻っていた。
「優は飛行機事故で亡くなった。
まだ中学生だったのに、死んじゃったの。
優が好きで、大好きで。
最初は優の死を受け入れられなかった。
でも、その死を受け入れられたのは
高校で出逢った先生…つまりお父さんのおかげなの。」
お父さんのほうを見ると
たまたま目が合って。
そうするとお父さんはふっと優しく笑った。
「もし、優が生きていたら、
先生と結婚することはなかったかもしれない。
もし、先生がいなかったら、
お母さんはまだ、優の死を受け入れられていなかったかもしれない。
人生ってそんなものよ。
何か1つの滑車が狂えば、明日は簡単に変わっちゃう。
いるはずの人が、
突然、いなくなっちゃうかもしれない。
お母さんの言いたいこと…分かる?」


