「雫?どうしたの?」
部屋に着いて部屋の隅でいじけるあたしを見てお母さんが言う。
お父さんと優は部屋ではしゃいでいた。
「…なんでもないの」
そう、なんでもないんだ。
だってあれは、いつものことなんだもん。
「また廉くんとなんかあったの?」
お母さんがあまりに優しい表情であたしを見るから。
だから全てを吐き出してしまいそうになる。
「何にもないの」
でも、それをかろうじて堪えてそう答える。
「実はね、雫。
お母さんには中学生の頃、すごく好きな人がいたんだ」
突然、お母さんがそんなことを言い出す。
でも興味があったから黙っていた。
「でもね、その人…もう、いないの。
その人の死は、突然で。
そして深い悲しみをみんなに与えた」
お母さんは少し辛そうな表情ではしゃいでいるお父さんと優を見つめていた。


