「…………雫」
廉があたしの目の前に立つ。
「あ、おはよう」
あたしはいつも通りに笑ってみせる。
「おはようじゃないよ。
どうして先に行ったの?」
「あれ?お母さんから聞かなかった?
あたし、学校に用事があったの」
まあウソだけどね。
「いや、零さんから聞いたけど。
でも…ウソでしょ?
宿題なんて出てないし」
……しまった。
廉、同じクラスだった…
「雫?どうしてウソなんてついたの?
どうして何も言わずに先行ったりするの?」
「…………………」
あたしが答えられないでいると
「まあ落ち着こうよ、廉」
竜馬くんが助けてくれた。
「うるせぇよ、音無。
お前に関係ないだろ」
廉はそう言って竜馬くんを睨む。
「廉、竜馬くんにつらく当たりすぎ!
竜馬くんが可哀想だよ!」
そう言うと廉は俯いてしまう。
「…………そういうことか。
もういい。
雫は音無と2人で仲良くすればいいよ……!」
顔を上げた廉はあたしを睨んだ。
廉が…あたしを睨む?
こんなこと…今まで1度もなかったのに…
自分の席に戻っていく廉の背中を見つめながら
心にポッカリと大きな穴があいてしまったのを感じた。


