―――――数ヶ月前。


「いらっしゃいませ。何名様で御座いますか」


まだ、高校生だったあたしは家の近くにあるちょっとお高めの和食料理店でアルバイトをしていた。
そこで出会った一人の方がきっかけでここまで運命が変わるなんてその時は思いもしなかった。


「これは、これは御坂様お久しぶりで御座います。」
「女将、久しぶりだね。それにしても、暫く来ていなかった間に新しい子が入ったのかい?」
「ええ、良く働いてくれる良い子でしてね。美咲ちゃん、ちょっと……」
「はい」
「彼女は、大谷美咲ちゃん。此方はうちをよく贔屓にして頂いている御坂良太郎様よ」
「はじめまして、大谷美咲と申します。」
「はじめまして、僕は御坂良太郎だよ。よろしくね」


女将さんに紹介されたのは最近テレビにも良く出てくる御坂グループの御坂良太郎さん。
御坂グループが何かをしている会社かイマイチわからないけど凄い人なのは知っていた。


それから、度々お店に顔を出すようになった御坂さんは夏休みが終わる直前だっただろうか……いきなり、あたしに就職話を持ち出して来た。


「美咲ちゃんは進学するのかな?」
「いえ…まだ、やりたい事見つからなくて……。来年もここで働きながらやりたい事見つけようかなと思ってます。」
「じゃあさ、もし良かったらうちで働いたりしない?」
「えっ!?御坂さんの家で、ですか……?」
「そう。うちの香奈子が新しく雇った専属の執事達を次々と追い出しちゃってね…手に終えなくて…どうかな?」


香奈子ちゃん、御坂さんの話に度々出てきて一度だけ写真を見せてもらったことのある小学4年生の女の子。
大人しい、お姉ちゃんの里香子ちゃんとは違いおてんば娘。


「でも、あたしマナーとか全く知りませんよ?」
「あ、うん。それは承知の上さ。美咲ちゃんには香奈子の世話係をして欲しいんだ。」
「世話係ですか…」
「勿論、給料は出すし。やりたい事見つかるまでの間でいいからね?」
「……わかりました。よろしくお願いします。」


元々、進路の決まってなかったあたしは軽い気持ちで御坂さんの話を受けることにした。