薄く開かれたオレの目に飛び込んで来たのは、一人の老女だった。 いや、オレだけではない。 このスクランブル交差点で信号を待つ者全てが、その老女にくぎづけになった。 その老女は、まだ信号も青になる前から、ヨロヨロと信号を渡り出したのだ。 一歩。 また一歩。 歩幅にしておよそ10センチ。 右手に杖を持ち、左手には買い物袋。 白い袋からはおそらく夕飯のおかずと思われるゴボウと大根がはみ出ている。 道行く車はその老女を取り囲むように止まり、そっと見守っていた。 ・