お家に帰ろう。

その言葉を極めつけに
とうとう、将人の気持ちが爆発した。

「偉そうに…俺の…母親の命…救けられなかったくせに、何が医者だ!何が父親だよ!」

「…おまえ…そんな風に思ってたのか?」


父親は首を左右に振りながら、
少しずつ、顔をうつむかせていく。


そして、ため息を一つ吐くと、
ゆっくりと語りはじめるのだった。


「父さんだって、おまえの母親を救けたかったかったさ。」

それは、力の抜けた小さな声だった。


「これでも最初は外科医志望で、助手として手術に関わってたことだってあったんだ。」

「…」

「彼女とは高校時代からの付き合いで、結婚も早かった。もの静かで頼りなく…守ってやりたくなるタイプの女性だったから…なのに、全く気付いてやれなかった。昔から食が細く、貧血や生理不順などもあったもんで、おまえを身籠ったのを知ったのも、15週…4ヶ月は経ってからのことだった。奇跡と言っても良いくらいだよ。なのに…」

「!」

「きちんと話しておくべきだったな……すまない。」

「な、なんだよ。」

「産婦人科での内診で、子宮に腫瘍が見つかったんだ。これは稀にあることで…検査の結果、悪性だった。つまり癌だ。切除するにも妊娠中。何度も検査した結果、それはかなりの大きさで、切除には子宮の半分以上は…」

言葉に詰まる父親は、

「どーしてもっと早くに!彼女の容態に気付いてやれなかったのかって…彼女は案の定、おまえを産むことを希望した。」

「そんな!」