お家に帰ろう。

「ねー弥生さん。そろそろ明ちゃん、きちんとしたレッスンをつけた方が良いと思うんだけど。あたしみたいな、ただの経験者が教えてるだけじゃもったいないわよ!」

「んー。アレであの子、ものすごく頑固でね。無理にやらせたら“辞める!”とかって言いだしそうで…」

「偉いわねぇ…子供の意見を尊重して。うちなんか、親の意見は絶対だけどなぁ。」

「てっちゃん、素直で良い子だから。」

「一人っ子は駄目ね〜。今からでも兄弟作ってやった方が良いかしら?」

「あははは。」


笑いながら、弥生は考えていた。


明の音楽への才能が本物で、
それが開花したとなれば、
あのことを隠しておく訳にはいかない。

ならば、早い方が良いのか……?


1人で悩んでいても仕方がない。


ある日の夜に、そんな弥生が持ちかけた相談事から発展して、
揉める両親の怒鳴り声に、将人は気が付いた。


「おまえが将人を可愛がってくれているように、俺だって、おまえと同じように明を大事に思っているんだ!!」


そんな父親の声を初めて聞いた、
将人、中2の冬のことだった。


翌朝、母親と会話をしないまま、
父親は仕事へと向い、

敏感な子供達は、その様子を見て秘かに会議をはじめた。


「夫婦喧嘩だね、これは。」