お家に帰ろう。

「…そーなの?」

「あ、あぁ。だいたい動物のお医者さんじゃないし!それにもう、この状態じゃ…ムリかもな…」


その夜、父が帰ってきても、
もう、手のほどこしようがなく、
二日目の朝、
モモの体は固くなっていた。


母親は“モモ2世”を飼ってくれると言ってくれたが、

明は

「モモの代わりはいらない!」

と、鬱ぎ込んでしまった。


そんな明に、将人が言った言葉はこうだ。


「俺は、今のお母さんが代わりに居てくれて、良かったって思ってるけどなぁ。」


小学校三年生の明の心にも、
ズシンっとくる言葉だった。


「まーくんは強いね。」

「…違うよ。知らないだけだよ。だって、記憶の中の母親は、今のお母さんだけなんだから。」

「そっか。」

「俺に母親のことを話してくれたのも、お母さんだったし…どちらかと言えば、医者のくせに母親を救けられなかった、父さんのことをどーかと思ってる。」


このあたりから、将人の反抗期が始まっていた。


部活を理由に、あまり家に居ることもなく、
この家での存在感を、自分から消しているようにも思える将人は、
まるで、
上條家の“のけ者”だと言わんばかりで…

家に居ても部屋に籠もり、
食事の時もブスッとしている将人を
当時の遥は怖がっていた。