お家に帰ろう。

明の実父は、現在、社長の座に着いていた。


父親は会長となっているが、
若い時の苦労がたたり、
今は、病院への入退院を繰り返している。



葉月との結婚を散々反対していた母親も健在で、

反対を押し切れず、言いなりとなった息子夫婦の間に、子供が授からなかったことを、
“罰がアタったった”と、独り言で口にすることがある。


妻は、そんな自分を蔑みながら、肩身の狭い思いをして暮らしている。

それを知っていた夫(明の実父)は、
“自分に身体に子孫を残せない原因があるのだ”として慰め、
葉月とのコトが、決して妻の耳に入らぬように隠してきた。


そこにきての“明”の登場と言う訳だ!


ここまで育ててきた親も、
“そんなムシの良い話は無い”と必死に隠し通すつもりでいるのだし、

実父が現れた事実を知る将人は、明に里心が着かぬよう、これ以上、実の親子が会う機会を与えまいと考えた。


明を常に家族のそばに…そして、特に自分との絆を深めておかなければならず、それなのに今、この怪我だ。

駄目だと言われると、試してみたくなるのが人間の心理。


明に刺激を与えぬよう、とにかく安心する言葉を投げ掛けながら、内心では、思うように動けない自分に苛立ち、

(なんでまだ、俺は学生なんだ!)と、

気持ちだけが先走ってしまう将人だった。