お家に帰ろう。

「一緒にいい?」

「え!あ、…はい…」


突然現れた“この男”の存在が、
ムシャクシャする明の心に新鮮な風を送り込むことになる。


名前は“林 大樹”…高校1年。


いつも彼は、もくもくと練習をしていて、
彼が先に使っていた時は、明も一緒に使わせてもらえたので、前よりも、ずっと練習できるようになり…
こうして、何度か会ううちに、
ただの“顔見知り”だった二人は、だいぶ親しくなっていた。


明から見ても、あまり上手いと言えない彼は、
とにかく今、テニスに夢中で、
明のことなど“場所を共有している、テニス好きな中学生”としか見えていないようだ。


そして明も、彼を恋愛の対象には思えなかったのだが…
休憩中の彼との会話は楽しんでいた。


「名字が簡単すぎるから、母親が名前には拘ったらしいんだ。男は一生この名字だからね。」

「それで“大樹”ねぇ。じゃあ、奥さんになる人の名前にも拘っちゃうんじゃない?例えば“みどり”とか…漢字だと“林 緑”だね〜!」

「馬鹿にしてる?」

「でもさ、好きになっちゃったら仕方ないもんねー。“花ちゃん”とか…あ!“葉子”は?イーよ葉子!」

「違うし。」

「…あ〜、今、ポロって言っちゃったねぇ!彼女いるんだ?!」

「いないよ。」

「ん?じゃあ好きな人だ!ねぇ、なんて名前?」

「…」

「なによ…あたしの知らない人なんだから、言ったってイーじゃん!」

「言う必要がないから言わない。」