なんだかんだ言っても、
姉の気持ちと家族の平和を考える明は、自分の領域に踏み込んで来ようとする者を恐れていた。


非道な奴は、もちろん許せないが、
市川のように、善良な者も困りモノだった。


嫌う要素のない人物を、無理に理由を付けて遠ざけたのは、
真実を知られて、嫌われたくなかったから…


人間とは本能的に、
好きな人には、嫌われてでも記憶に残っていたいくせに、
良い人からは、嫌われることを避けるものだ。


奇跡的にも、市川がまだ、自分のことを気にしてくれていることが分かった今、
もう、これ以上の悪い印象を与えたくないと考えた明は、

ある事を思いついた。


それにはまず、
遥の携帯電話から、吉岡のメールアドレスを盗み見なければならない。


前に一度、偶然見てしまったことがあったため、
遥が“翔太”の名で登録していることは知っていた。


遥の入浴はあまり長くない。
ゆえに、
携帯電話を持って入ることも無い。


その時をねらい、赤外線通信にて吉岡のアドレスをゲット。
次に、
一時的に自分のアドレスを変え、遥に内緒でメールを送信。


『遥に内緒でメールしてまーす。合コンの前に、一度打ち合わせしておきたくて、姉抜きで会うことって出来ますか?』

すると、

『明ちゃんだよね?その案件、了解です!』

罠にハマった吉岡の正体が、少し見えた気がした。