お家に帰ろう。

「おまえは何をしてんの?」

将人がたずねる。


「だって、明の好きな奴って、俺じゃないみたいだよ。」


哲司の言葉に将人は考えた。

(哲司じゃない?…じゃあ誰なんだ?)


将人の中では、明の相手は哲司しかいなかった。

家族ぐるみのつきあいで、幼い頃から一緒にいて、互いの泣き所も知り尽くしているような間柄だ。

相手が哲司なら、兄としても安心だった。

兄バカもここまでくると、妹も大変だろう。


「マサくん、中村って知ってる?」

「中村?」

「今、テニス部の中3。マサくんがいた頃の中1で、」

「あー、いたなぁ。」

「中村先輩、もしかしたら明のこと好きかもよ。」

「…は?」

「もちろん、マサくんの妹だってことは知ってはず。テニス部じゃ有名な話だから。」

「…俺、あいつになんかしちゃったっけ?」

「?いや、知らないけど。」


もはや、素直に受け入れられない将人。


(俺が何かした仕返しに、明をたぶらかして…)


色々、思い出そうとしてみても、何も思い浮かばない。


そもそも、代代テニス部は、
2年生が1年生の指導にあたり、
厳しい序列が守られていくので、
3年生は、隣り合わない学年の、1年生を可愛がったりしたものだ。