大きくなったらお花屋さんになりたい、と思っていた私は、今では花の美しささえわからない程、荒んだ生活を送っている。
それでも部屋には、アクリル、シルク、ドライ、プリザーブドフラワーが飾られている。
あと、粘土の花も。
何故私が生花を嫌うようになったか?それは、父親の再々婚相手が庭にやたら花を育てていたからだ。
劇場、病院、霊園が近い勤務先の花屋は、中年の夫婦が長年の夢を叶えて、慎ましやかに営業しているが、手が回らなくなり、私がお世話になっている。
実は、旦那さんと私は、以前同じ会社で働いていた。
まあ、世に言うただならぬ仲という奴。
てっきり、私と結婚してくれると思ったのに、彼は二股を掛けており、できちゃった婚をしてしまった。
それでも彼の事が好きだから、ずっと傍にいたくて、細く長く不倫を続けていた。
花に詳しい男はモテる。
私達は、初めてのデートで、花の博物館に行った。
手を繋ぎ、彼は花弁や雄しべ雌しべだの、興味深く見ていたが、私は早く彼に私の花弁を開き、花芯に触れて欲しかった。
花ではなく、私の事を見て欲しかった。
夕方まで歩き疲れた私達は、元町で軽く食事を済ませ、駅に向かった。
彼は優しく私の髪を撫で、そっと抱き寄せた。
彼の胸に顔を埋めたかったが、彼の唇が私を捕らえた。
花を扱うように、彼は女性を扱うのがうまかった。
こうして私は、初めてのデートで彼に身体を許し、都合良く人生を翻弄されていくことになった。
結婚することにした、と彼の口から聞いた時には、死んでしまおうかと思った。千々に乱れる気持ちとは、こういうのを言うのだろうか。
Sexは確かによかった。荒れてざらざらな手で、体に触れられるのは痛いが、ヤスリで削られ磨かれているようで凄く感じて、大きな声を出していた。
でも、本当に好きだった。だから、奪おうとは思わず、彼が幸せならいい、ただ彼の傍にいられる方法だけを考えた。
奥さんは何も知らない。
…はずだ。