遠まわりな初恋

 いつも通りに中庭の木々や小さな虫たちと戯れている背中を目で追っていた時。その日は外出を避けるほどでもないが風の強い日で、地面に落ちた枯れ草や落ち葉などもひらひらと宙に舞い上がる光景が広がっていた。しゃがみこんでせっせとなにやら集めている少年の首にまいたマフラーも、先の方の飾り毛糸があおられて、まるでおいでおいでをしているかのように波打っている。
 そこへふいに、一陣の強い風が舞い込んできた。ごおっと音を立てて去っていった通り風で、遠目にも小さな背中が縮こまったのがわかった。こちらを向いていない顔はきっと、衝撃を避けるためにしかめられているに違いない。
 理沙は思わず、その背中を労わるようにそっと、窓ガラス越しに手のひらで覆った。
 建物の1階と3階に分かれているこの距離では、届く距離でないのはわかっていた。それでも、小さく震えるその姿を、どうにかして包んであげたい、と思う一心の行動だった。
 暴れる風が去ったあと、ふっと強張った力を抜いた少年にほっとして、そっと手のひらを解く。今度は丸く囲んで覆うような格好で彼を覗き込んだ。そのときだ。
 手のひらの囲いの中で、少年が勢いよく振り返った。
 黒い瞳をいっぱいに見開いて、なぜだろう。驚いた様子でじっとこちらを見る視線と、吸い寄せられるように自分の視線が絡むのを感じた。
 そらすことのできない視線。そらされることなく見返される視線。
 小さく少年は何かを呟いたようだったが、その唇の動きが読めるほど二人の間の距離は短くない。
 なんだろうと理沙が思わず小首を傾げると、こちらを見ていた少年が大きく笑み崩れた。
 大人に変わる一歩手前の、幼さの残る顔つきが、ほころんでいく様が不思議なほどのスローモーションに見えて、まるで現実感を伴わない。まるでドラマのワンシーンのようなその場面に釘付けになって動きを止めたままの理沙に、少年は大きく手を振る。次いで、窓が閉まっているにも関わらず、大声で語りかけてきた。