種のない花(15p短編)

「ねぇ、一緒に抜け出そ」


 腕に絡ませていた指をいつの間にか俺の太股に移動させ、女が誘う。

 立ち上がり、携帯をズボンのポケットに入れた。
 女も立ち上がると増田に冷やかされたので、俺も軽口で返す。


「お、俺もっ」


 情けない顔で立ち上がる中島だったが、無論、他のメンツが許す訳もない。
 同じように携帯と財布をそれぞれポケットに仕舞ったまま、再び座席へ連れ戻される。

 出る前に中島のポケットに手を突っ込んで、取り出した携帯を机に返した。


「中島、携帯ポケットに入れんの止めろ」


 意味が分からないといった顔で見上げてきたが、無視して店を出る。


 携帯電話をポケットに入れて持ち歩く男は、そうでない奴に比べ、最大三割も精子が減少する。

 知らなかった。
 何も知らなかった。
 知ろうともしなかった。

 不妊なんて、女だけの問題だと思っていた。
 あの日までは。