種のない花(15p短編)

 翌日増田に謝って仲直りしたが、もう合コンの類いには行かなくなった。
 それと、会う度煙草は止めるよう、口が酸っぱくなる程注意した。
 大事な友人だったから。



「こうちゃん! 見て見てこれ!」


 嬉しそうに新聞を握り締め、我が家に駆け込んでくる。
 梨果は今も、俺の隣に居る。


「おー、バカでも新聞読むんだな」

「もう! 意地悪言ってないで、これ見てよ」


 そこには不妊治療に関する大きな前進が記されていた。

 同じ男性不妊でも原因や治療法は様々だが、中でも特に難しいとされている、非閉塞型無精子症。
 精子になる一段階前の精子細胞を、精巣から取り出して受精させる事で、非閉塞型無精子症の患者でも子供を作れるらしい。
 出産率は25%。

 現実的に見てこれがどれ位の数値であるのか、頭の悪い俺には実感できない。


「ねっ、ねっ、凄いでしょ」


 まるで自分の手柄であるかのようにはしゃぐ梨果の頭を、「凄い凄い」と撫で回す。
 子供扱いされたと、彼女は拗ねてそっぽを向いたが、俺は本当に感心していた。

 避けるでもなく、悲観するでもなく、憐れみもせず、ただ希望しか見詰めていない彼女は、何よりの救いだ。
 良いニュースを探してきては、嬉しそうに報告に来る。


 俺の現状は、何も進展していない。
 だけど少しずつ、それを受け止める勇気を貰っている。

 すぐには難しいけれど、もう一度ちゃんと、両親と話そう。
 病院へ行こう。

 良い事も悪い事も含めて、みんな俺の身体だから。
 この身体で一生、生きていくのだから。





end.20090904