種のない花(15p短編)

 本当は、お前と別れる二ヶ月も前に聞かされていたんだ。
 身体の事。
 でも言えなかった。
 怖かった。
 梨果といる時間が、あまりに幸せだったから。

 ベッドが、梨果の体重に小さく軋む。
 早く行ってくれ。
 俺がどんな想いでお前と別れたか、ちょっとは理解してくれよ。

 心の中で悪態をつく俺の頭を、梨果の柔らかい身体がすっぽり包む。


「こうちゃんが居てくれなきゃ、梨果は幸せになれない。
 梨果の夢は、こうちゃんとずっと一緒にいることだよ」


 もう言ったかな。
 梨果に告白した時が、俺の人生においてめちゃくちゃ嬉しかった出来事ベスト3に入っていると。
 何故一番ではないかと問われれば、今この瞬間こそが、まさにそれだからだ。


 だから、彼女の事を想うならここで突き放すべきだと。
 頭では分かっていたのに。
 気が付けば彼女の小柄な身体を、力一杯抱きしめていた。