種のない花(15p短編)

 頭まで布団を被っていると、階段を上がる二つの足音が聞こえる。
 予想通りそれは俺の部屋の前で止まり、ノックされた。
 気が重い。


「孝太、梨果ちゃんが来てくれたわよ」


 母親の言葉に、心臓がぎゅううと縮こまる。
 今一番会いたくない相手なのに、何で。

 足音が一つ、階段を下りていき、少し待ってから扉が開かれる。
 もう一つの足音が近付き、膝を抱え頭から布団を被っている俺の前で、止まる。


「梨果と別れた理由って、それ?」


 もう学校中に広まっているだろう。
 当然、梨果の耳にも入る。

 呆れたような、怒っているような、いつもより少し低いトーンが、狭い布団の中に響いた。
 次の瞬間。
 ぐっと、それを引っ張られ、射し込む明かりに慌てて顔を隠す。


「何でちゃんと言ってくれないの、梨果がそんな事でこうちゃんを嫌うと思った?」


 分かってるよ、そんな事は。
 生まれた時から一緒に育ってきたんだから。
 だから言えなかったんじゃないか。


「俺じゃ、梨果を幸せに、できない。
 お前の夢を、叶えてやれない」