種のない花(15p短編)

 夏休み中、俺は増田達とそんな事を繰り返して過ごす。
 たまに家の前で梨果と会った。
 悲しそうな顔をして、目を逸らされるだけだった。



「ねぇ、もし孝太君と私がデートするとしたらさぁ」


 そしてまた、知らない女とカラオケボックスで、飲めもしない酒を口へ運ぶ。

 何故女は、「もしも」の話が好きなのだろう。
 梨果もよく、「もしも」の話を繰り返した。



「あのね、もしいつかこうちゃんと結婚したらね、野球チームができる位いっぱい子供ほしいの」


 よくある大家族番組を見ながら、黒目がちの瞳を嬉しそうに細めて語る。


「梨果って意外とスケベなんだ」

「えぇ!? ち、違うっ、そういう意味じゃなくて!」


 真っ赤になって否定する梨果を、可愛いと思った。
 好きだと思った。
 経済的にそれはどうか、という疑念も掠めたが。
 できる範囲で、彼女の可愛い夢を叶えてやりたいと思った。


 でもそれは、俺には永久に叶わないと、知ってしまった。

 可愛い梨果。
 大好きな梨果。

 お前の夢はきっと叶うよ。
 俺以外の男を選べば。