黄昏が藍絹(あいぎぬ)の帷(とばり)でようよう王宮を包み始めた頃、

 王宮の中庭を歩いていく二つの人影があった。

 ひとりは成年に達したばかりの若い貴婦人で、

 もうひとりはすらりと伸びやかな、まだ少女だった。

 貴婦人は、淡いモーヴ色(くすんだ桃色)の夜会服を身にまとった、柳のようにたおやかな風情の女性だった。

 そして少女は、輝く黄金の髪に溢れるほどの花を飾
り、真っ白い衣装を身につけていた。

 少女は先ほどから何度となく立ち止まっては、あたりをきょろきょろと見回したり、

 自分の足許を見下ろして衣装の裾を引っ張ってみたり、靴を脱いで履き替えたりと、

 どうにも落ち着かない様子である。

 が、貴婦人が構わず歩いていってしまうので、少女は仕方なく後を追いながら、その後ろ姿に向かって言った。

「ルーヴィエ、待ってよ。ねえ、これ苦しくって。戻って胴着に着替えてきていい?」

「急ぎませんと、時間に遅れますわ」

「でもこれ、重いし足は絡まるし、靴はてんで走りにくいし」

「もともと走り回るための靴ではありませんことよ」

 ルーヴィエと呼ばれた貴婦人は、少女の泣き言には取り合わず、早く先を急ごうと促した。

 しからばと少女は、衣装の裾を思い切りたくしあげた。

「まあっ!」とルーヴィエは叫んで、真っ赤に頬を染めながら少女をたしなめた。

「何ということをなさいますの、エレオノールさま!」

「だってこの方が走りやすいし、急がないと遅れてしまうんでしょう?」

「人前で足をさらすなんていけません。せめてそのようなお衣装を身につけておいでの時くらいは、しとやかになさってくださいまし」

「でもわたしは騎士の叙任を受けるためにここに来たんです。どうして兄上と同じ服装ではいけないの?」

「たとえ騎士の叙任を受けるための謁見であろうと
――あなたは姫君なのですから。
女性には女性として尽くすべき、陛下への礼儀があります」