「デューク殿!」

唐突に名を呼ばれて、デュークははっと我に返った。

隣で馬を進めていた補佐官のフロベールが、近寄ってきて耳打ちした。

「やはり彼らの様子が変です」

彼らというのは、デュークがロレーヌで雇い入れたスイスの傭兵たちだった。

従卒にでもしてくれと無理矢理志願してきたのだが、

言葉に妙なドイツ語訛があるのを訝しんで、密かに監視するよう言いつけておいた二人だ。

「パリの市門をくぐって以来、ともすれば彼らの隊列が乱れがちなのです」

「そうか」とデュークは言った。

「おそらくそんなことだろうと予想はつけていたよ。彼らの生まれがアルプスでないなら、王宮の城門を越えてからが、活躍の本番になるだろう」

「ではもう少し様子を見ていましょうか」

「ああ。そのまま知らん振りを続けてやることだ。彼らが安心して動き出せるように」

そう言ってデュークは、整然と行進する騎士団からなにげなく目を背けた。

 カルーゼル広場からロングヴィル邸の前庭にかけての広い空き地には、大勢の貴族たちがこぞって迎えに出ていた。

 デュークの視線は彼らの上を無関心に滑って、アンリ大王の騎馬像の向こうではたと止まった。

 彼はそこに、光の中から現れ出たような、輝くひとりの少女を認めた。

 彼は思わずはっと息を呑んだ。

 なぜならその少女のおもざしは、まだあどけなさを残してはいるものの、例の夢に出てくる女性と瓜二つだったのだ。

 少女の吸い込まれそうなスミレ色の瞳と、おのが視線がぴったり重なったとデュークは感じた。

 が、次の瞬間、少女の姿は幻のように、木立の向こうへかき消えていた。