白き砦〈レイオノレー〉

 女神はおのが身の上をいたく悲しみ、折れた杖もろとも、深さはかりしれぬ始源の淵へと身を躍らせた。

 泉は涸れて大地は渇いた。花咲く神殿は朽ち果て、精霊たちは姿を消した。

 天は女神を憐れんで、二人の若者に永劫の罰を下された。

 彼らの愛は永遠に満たされることはない。

〈折れたる杖〉が見いだされ、再び女神がよみがえる日がくるまでは。

 ………………

 永い永い月日が経った。限りなき命を持つ者たちは地上から姿を消し、上古の記憶はやがて人々の心から去った。

 天はこの世にひとりの姫を生(あ)れさせた。

 その姿雅びて麗しい、ローマの皇帝の姫だった。

 姫はやはり二人の若者に愛されたが、ひとりは神に奉じた身ゆえに、生涯想いを遂げることはかなわず、

 もうひとりは偉大なる王であったが、力づくで姫をローマから奪い去ったがゆえに、天の怒りにふれて命を失った。

 姫は亡き王を偲んでひとつの墓を建てた。そして王の復活を祈り、墓に太古の叡知を封印した―――」

それまで無言で聞いていたエレオノールが言った。

「それが〈白き砦〉だというのですか?」

フリーラインは頷いた。

「『砦を征する者は世を征す』……争いの絶えぬこの世界では、真実は忘れ去られ、そんな言い伝えだけが生き残った。

だがよく覚えておおき。〈砦〉にこめられた真実の使命は、征することではなく、

『見いだすこと』、

そして『解き放つこと』なのだよ。

永遠の眠りに落ちたレイオノレーを、目覚めさせることなのだ」

 フリーラインは言うと、リュートを傍らに置いて立ち上がった。

 彼は館を振り返ると、エレオノールに片手をさしのべた。

「ゆこう、そろそろ誰かが訪ねて来る頃だ」

 エレオノールはその手を借りて立ち上がりながら訊いた。

「誰が訪ねて来るのですか?」

「そなたに危害を加えた者を引き取りに、おそらくその者の上司がやって来るだろう」

「そうだ、わたしは訊くのを忘れていました。ここはまだパリの近くですか? あなたがわたしを救ってくださったのですね?」

ひっきりなしに続くエレオノールの質問に、それは戻ってから答えてやろうと言って、フリーラインは館へと歩いていった。