白き砦〈レイオノレー〉

(ああ――)とエレオノールは、無意識に呻いた。

その目に遠い時代の幻影がまざまざと甦る。

 遙か彼方から、かすかに呼ばわる優しい声が響いてくる。

(レイオノレーさま、レイオノレーさま……)


 かつて彼女は、美しい泉の女神であった。

 樹木や花や水の精霊たちに誘われ、リュートの調べを辿っていこうとしていた。

 その踏み歩いた地面からは、たちまちにして芽が萌え花が咲いた。

 やがて目の前に、リュートを抱えた人の姿がおぼろに浮かび上がってきた。

 大理石の階段に片膝を立て、長いローブを背に流してリュートをつま弾くその姿は、たいそう優美で艶めかしい。

 エレオノールは人影に近寄っていった。

 すると人影はリュートをつま弾くのをやめて、ゆっくりと顔をあげた。

 影は彼女に向かって静かに両腕を差し伸べた。

 彼女は懐かしさと愛しさに息が詰まって、その腕の中に走り込んだ。

「フリーライン!」

 思わず口にしてしまった、意味も分からぬひと言に、エレオノールはびっくりしてぱっと瞳を開いた。

 リュートをつま弾いていた人の顔が、すぐ目の前にある。

 エレオノールは思わず息をのみこんだ。





 その男の人は、まるで大理石の像のような人だった。

 面長の白い顔に細い鼻筋。

 淡い金茶色の艶やかな髪は、緩やかな波を描いて顔のまわりを包むように落ちかかり、首の後ろで束ねてあった。

 唇は女性のように紅い。

 あごの線も首筋も、男性とは思えないほど滑らかで流麗な線を描いている。

 だが、それらにもまして魅入られてしまうのは、伏し目がちの蒼い瞼の奥に潜む、深いエメラルドの二つの瞳。

 そこには覗き込む者を魅了して離さない魔性の輝きがあった。

 それは長い睫毛に縁どられ、弓形の弧を描く眉とともに、類いまれな高貴さと妖しさを合わせた不思議な美しさをその人に与えていた。