白き砦〈レイオノレー〉

なんだか奇妙な感じがした。

 この館の持ち主は、まるで自分を見知っているようだ。

 エレオノールはテラスへと通じるガラス戸の取っ手に手を掛けた。

もともと鍵など掛かっていなかったらしく、扉は難なく開いた。

 さわっと心地よいそよ風とともに、艶やかな花の香りが漂う。

 その心地よい香りに誘われて、裸足のままテラスへ一歩踏み出してみる。

 途端にあっと声をあげ、足が止まった。

 そこはまるでイタリアの別荘(ヴィラ)のように美しい庭園だった。

 白い大理石の広い階段の先は、丁寧に刈り込まれたトピアリーに続いて橋が架かり、小川が流れている。

 小川のまわりを薔薇垣が囲み、色とりどりの薔薇が甘い香りを漂わせ、今を盛りと咲き誇っている。

 その先は小高い丘になっていて、エステ家の庭を模したように、段をなして噴水が流れ落ちていた。

 中央には大きな泉があり、両脇に大理石の像が建ち並んでいて、背景には薄紫の花をたわわにつけた季節外れのリラの花が、霞のような彩りで飾っていた。

 大理石の像はどれも美しい人々だったが、なによりその見慣れぬ衣装が目を惹いた。

 それはギリシャの美神の像ではなかったし、華やかに着飾った貴婦人の像でもなかった。

 紗の衣を一枚まとったその腰と胸のあたりに、複雑な金線模様で埋め尽くされた帯や首輪を巻いている。




 どこからか風に乗って、雅びなリュートの調べが聞こえてきた。

 それは水晶のように透明な音色で、儚くそして切なく胸をうった。

 リュートの音色をこれほど美しいと思ったのは初めてだ。

 その妙なる音楽に心を奪われて立ち尽くすうち、不意に大理石の像から、生身の人間が形をとって抜け出てきたような錯覚に襲われた。