白き砦〈レイオノレー〉

「ちっ、行き止まりだ」

 忌々しそうに前に乗った男が言った。

 前方には、白い大理石の立派な構えの高塀が聳えて
いる。

「どこかのお屋敷にでも迷い込んじまったか」

 と、もう一人も言った。

 エレオノールは、今こそ逃亡の千載一遇のチャンスと、ありったけの力をこめて起きあがり、馬の脇腹から飛び降りた。

 気配に気づいた男が振り向いた。

「しまった、逃げるぞ」

 男はすかさず馬から飛び降りて追いかけてきた。

 エレオノールは急いで胸許を探り、そこに収めておいた懐剣を引っぱり出して身構えた。

「こいつ、ちくしょう、刃物なんか持ってやがる」

 男は苦々しげに言って、自分も腰から長剣を抜いた。

 その顔に不適な笑いが浮かんだ。

「へっ、男に刃向かうなんざ、勇気あるお姫さんだぜ」

 たかが子供の相手くらい、ひと突きで十分だとばかりに、男はエレオノールに向かって力任せに突いて出た。

 エレオノールは身軽によける。

 しかも鋭い剣の切っ先をかわすついでに、男の腕を懐剣で斬りつけることも忘れなかった。

「痛てっ」と男は斬られた腕を押さえながら顔をしかめ、エレオノールを見返った。

 見かけは少女のなりなのに、まるで正規の訓練を受けた剣士のように鋭い身のこなしだ。

「まさかおまえ、女装した男じゃあるまいな」

 するとそれにかぶせるように、

「生意気な小娘め!」

 ともうひとりの男が叫んで、馬に乗ったまま突進してきた。

 エレオノールは慌てて飛びすさったが、背後の茂みに足を取られてよろめいた。

 急いで体勢を立て直し、よけようとするが、それより早く馬の蹄(ひづめ)が目前に迫る。

 全身に鈍い衝撃が走った。

 激しく後ろにはじき飛ばされた勢いで、持っていた懐剣が手を離れる。

 薄れていく意識の中、エレオノールは男たちがぎゃあと叫ぶ声を耳にしたように思った。