白き砦〈レイオノレー〉

 耳許を風が吹き抜ける。

 何かに押しつけられた胸が苦しい……

 徐々に覚醒していく意識の中で、エレオノールは思った。

 まるで馬の速駆けのリズムのように、規則正しく身体に伝わってくる衝撃――

どこかへ移動しているのだろうか。

 と、頭の上の方から、

「ちくしょう、今回の計画は失敗だ」

と、男の声が聞こえてきた。

「あんとき見つかりさえしなければ、今頃王太子の命は頂いて、褒美を手に入れるためにまっしぐらってとこだったんだがなあ」

するともう一つの声が言った。

「しかしよ、王太子を殺っちまえば、あのお方は気がすむだろうが、おれたちゃ赤ん坊には何の恨みもねえ。
成功したところで後味の悪い仕事だ。べらぼうな褒美の額でもなきゃあ誰が引き受けるもんかい」

「だが失敗しちまっては、おめおめ雇い主のところへ戻ることもできん。今度はこっちが大目玉をくらうからな。
早いとこ、こんな国はずらかろう。うまい具合に人質も手に入れたしな。
おそらくどっかのお姫さまだろうが、この娘を盾にして国境まで逃げおおせたら、サラセンの商人にでも売っ払っちまおう。
ちらっと見ただけだが、びっくりするほど綺麗な娘よ。きっと高く売れるだろうよ」

 そこまで聞いたところで、エレオノールははっきりと覚醒した。

 目の前に馬の脇腹が見える。

 やっぱり馬の背に乗せられているのだ。

 しかもうつぶせに放り投げられるように鞍の後ろに乗せられているので、揺れるたびに胸が押されて苦しい。

 前に乗っている男は、銃士のなりこそしているが、話し言葉から明らかに同国人ではないとわかる。

 さっきの会話から、王宮で悪巧みを企てたものの、不首尾に終わって逃亡の最中らしい。

 エレオノールは男たちに気づかれないようにゆっくりと頭をもたげて、周囲の様子を窺い見た。

 馬は薄暗い森の中を走っている。

 かなり広い森のようだ。

 果たしてここはどのあたりなのだろう。

 まだ王宮の近くだろうか、それともパリを遠く離れてしまったろうか。

 いったい自分はどれくらいのあいだ気を失っていたのだろう。

 と、馬が急に立ち止まった。