恋するために生まれた

「心ん中」

「…心?」

「うん。心」



ツバサはあたしの
胸のあたりを指さした。


「きっとおまえが
 しんだ人を想ってる限り
 その人はおまえの中で
 生き続けるんだ」

「生き…続ける」

「きっとな」



ツバサのその言葉が
あたしの心に
じんわり染みわたる。


きっとあたしの中に
父は生きていない。
あたしは父のこと
ほとんど覚えちゃいないのだ。

それなのに
あたしってそんなヤツなのに
ツバサが真剣に答えてくれたから
あたしはなんだか泣けてしまった。




「おまえっ…
 何泣いてんだよっ!」

ツバサが慌てる。


「俺、悪いこと言ったか?」

「うぅん、違う」

「なんで泣くんだよ」

「わかんない」



ツバサは困ったように
でも優しく
指であたしの涙を拭った。


「俺、ハンカチとか
 持ってねーからよ」

「…ごめん」

「ああぁぁっもう泣くなっ」

「ごめん…」





泣きながらあたしは
人前で泣くなんて
保育園のとき以来だ、と思った。



空は
泣きたくなるほど
キレイだった。