その日
家に帰ると母はもういなかった。
テーブルには
いつもの手紙がある。
『ユウへ
煮物と味噌汁が鍋にあります
早く寝るのよ』
鍋を見ると
鶏肉と大根の煮物がある。
あたしはコンロの火をつけた。
小さな二人がけの
ダイニングテーブルの席に着いて
あたしはなぜか
ツバサのことを思い返していた。
ツバサはあたしを
“おまえ”とよぶ。
あたしには
ユウって名前があるのに。
男の人に
“おまえ”とよばれたのは
たぶん初めてだ。
小学校の頃も、中学校の頃も
クラスの男子は
“広瀬”と苗字でよんでいたから。
ツバサが退院したら
あたしたち、もうあの屋上で
会うことはないんだろうか。
骨折、って言ってた。
退院はそう遠くないだろう。
たぶんツバサは
たんなる暇つぶしで
あたしと話してるだけ。
―明日も来る?
今日も帰り際、
ツバサはあたしにそう聞いた。
―雨じゃなかったら。
あたしはそう、答えた。
でもこれは
約束なんかじゃない。
ツバサは来ると言わなかったし
来ないとも言わなかった。
あたしは夕食を食べ
シャワーを済ますと
ツバサのことを考えながら
温かいベッドで眠った。
家に帰ると母はもういなかった。
テーブルには
いつもの手紙がある。
『ユウへ
煮物と味噌汁が鍋にあります
早く寝るのよ』
鍋を見ると
鶏肉と大根の煮物がある。
あたしはコンロの火をつけた。
小さな二人がけの
ダイニングテーブルの席に着いて
あたしはなぜか
ツバサのことを思い返していた。
ツバサはあたしを
“おまえ”とよぶ。
あたしには
ユウって名前があるのに。
男の人に
“おまえ”とよばれたのは
たぶん初めてだ。
小学校の頃も、中学校の頃も
クラスの男子は
“広瀬”と苗字でよんでいたから。
ツバサが退院したら
あたしたち、もうあの屋上で
会うことはないんだろうか。
骨折、って言ってた。
退院はそう遠くないだろう。
たぶんツバサは
たんなる暇つぶしで
あたしと話してるだけ。
―明日も来る?
今日も帰り際、
ツバサはあたしにそう聞いた。
―雨じゃなかったら。
あたしはそう、答えた。
でもこれは
約束なんかじゃない。
ツバサは来ると言わなかったし
来ないとも言わなかった。
あたしは夕食を食べ
シャワーを済ますと
ツバサのことを考えながら
温かいベッドで眠った。


