恋するために生まれた

「おまえ
 家に帰りたくねーの?」


突然ツバサが
そんなことを聞くので
あたしは戸惑う。


帰りたくない、なんて
考えたこともなかった。



だけど
家が好きか、と問われれば
あたしは答えられない。




「帰りたくないわけじゃないよ」

怒ったように
あたしは言った。

ちっとも
怒ってなんかいないのに。



「じゃあなんで
 毎日ここにいるんだよ」

「言ったでしょ?
 空が好きだから」



ツバサは
やれやれ、という顔で

「やっぱ夢見る少女か」

と言った。



「・・・・・」



黙りこむあたしに
ツバサは今度はふざけた調子で

「あ、少女じゃないな。
 処女か。なんてな。ははっ」

と言った。




「なんでそんなことわかるのよ」

「えっ違うの?」

「そんなこと言ってない!」

「ジョーダンだよ、ジョーダン」




ツバサはあたしに
カラッポになったペットボトルを
差し出した。



「わりぃ全部飲んじゃった」

「別にいいけど…」

「俺の唾液つきだから
 プレミアつくぜ」

「つかないよっ」

「あ、おまえのもついてんだ。
 価値下がるな。あはは」

「ひっどーい!」



そう言って
ふたりで笑った。